近視とは、近くは見えるものの遠くが見えにくい眼の状態です。
眼の構造で説明すると、物がはっきりと写る眼の内面(網膜)で焦点が合わず、その手前で焦点が合っています。
次に眼の軸が長くなるか(軸性)、眼の中のレンズが膨らんだまま元に戻らなくなる(屈折性)かの二通りの変化を起して真の近視となります(図1)。
レンズを厚くする筋肉の緊張を解くことで近視が治るならば、その近視はまだ偽近視(あるいは仮性近視)の状態であったと言えます。
偽近視の治療として眼科で最も広く行われているのが、筋肉の緊張をとる目薬(商品名:ミドリンM点眼、サンドール点眼)を就寝前に点眼する方法です。当院ではこれを1ヶ月続けても近視が減らなければ、偽近視ではなく真の近視と判定しております。
他の方法として遠くの景色を長い間見つめる望遠訓練がありますが、医院内では内部の立体風景を5分間眺めるだけで同じ効果を持つ器械(商品名:ワック)で行っております。また低周波や超音波を使った理学的療法も民間で行われています。
ただしこれらの治療を行っても近視はほとんど軽減せず、あっても一時的です。
偽近視に対する治療を行ってもほとんど治らないことから、権威のある眼科医にも偽近視の存在に疑問を持たれている方がいます。
子供から大人になるまでの成長期に進行する近視は軸が長くなるタイプであり(軸性)、黒目(角膜)を削って平らにする(レーシックなどの屈折矯正手術)か眼球をひしゃげない限り治ることはありません。
実はほとんどの近視がこのタイプです。一方、成人してからコンピュータの画面を長時間見て近視が進んだ方が、結婚などを契機に仕事を辞めてコンピュータの画面を見なくなると、数ヶ月~1年ほどしてから近視が軽くなることがあります。 このことからこの近視は眼の中のレンズが膨らんだまま元に戻らなくなっていたタイプ(屈折性)と考えられます。
昔から近視を予防する方法として、暗いところで本を読まない、近くでテレビを見ない、遠くの景色を見るようにするなどの言い伝えがあり、耳にされたことがあると思います。
これらを咀嚼して要約しますと、パソコン、タブレット端末、スマートフォンなどの照明を有する画面が身の回りに数多く存在する日本で暮らし、勉強という近業作業を長時間強いられる学童期の子供たちは近視化する傾向があり、さらに両親のうちどちらかが近視ならば、近視化はほとんど避けて通れないと思います。
お子様が近視だと診断されると、そのご両親のなかには子供の近視化を止められなかったのは自分たちの責任と感じて落胆される方がいらっしゃいます。
近業をいくら行っても近視にならない子供が一方でいますので、この子供らが正常であって近視になるのは異常と考えてしまいがちですが、いかに気をつけて生活を送っても、『近視になる子はなる』のでご両親に責任はありません。
日本で住んでいるかぎり近くを見る機会は非常に多く、近くに容易にピントが合うためには近視化することが自然な反応であり、これは環境に適応する生物の進化そのものであると個人的に解釈しております。
ご両親のなかには、メガネを掛けて近視が進んだことを経験した、もしくはそんな話を聞いたことから、子供のメガネの装用を極力遅らせる方がいらっしゃいます。
このことから、授業中だけメガネを掛けるような一時的なメガネの装用は、メガネを常用しているよりも近視が進行しやすい可能性があります。
メガネを掛けたことがなく裸眼でしかものを見ていない子供は、眼を細めたり、横目で見たり、顎を上げたり引いたりして焦点深度を深め、見やすい工夫を無意識のうちにしており、さらにぼやけて見える像を脳が解析して鮮明にもしています。これらの努力により、裸眼視力が近視の程度の割には良いことが多いのですが、メガネを掛けて見やすい環境に慣れるとこれらの努力が必要なくなるので、本来の悪い裸眼視力が浮き彫りになります。
また、視力の低下は近視の進行に合わせて図2の斜線のように直線的に低下するのではなく、ほんの少し近視になったら滝から水が流れ落ちるように、0.2ぐらいまでは急激に低下します(図2)。
つまり、少し見えにくくなってメガネを掛け始める時期と、急激に視力が低下する時期が重なります。
これらの理由により、メガネを掛けると急に進んだという記憶を持つご両親が多いのです。
遠くの黒板の字がまだ見えるぐらいの軽い近視であれば、メガネをかけなくても日常生活に不便を感じないでしょう。
しかし眼前30cmぐらいから離すとぼやけるほどに近視があれば、メガネを常用すべきです。
また本来、遠くを見るとき両目はまっすぐ前(開散)、近くを見るとき両目は内による(輻輳)という動作が四六時中行われているのですが、メガネを掛けていないとこの動作がスムーズに行われず、メガネを掛けると物がふたつに見えると訴えることもあり、必要な時期が来ればメガネを掛けさせるべきです。
黒板の字が見えにくくて学業に支障を来たすにもかかわらずメガネを掛けたくないのは、メガネを掛けると近視の進行が早まるから掛けないという誤った思い込み以外には、ただ単純にメガネを掛けることが嫌だからでしょう。ご両親が子供にメガネを掛けさせるのが可哀相と思い、掛けさせないこともあります。この場合、コンタクトレンズという選択肢もあります。
近視のために遠方が見えにくくて困ることを自覚するのは、先ず初めは黒板の字です。
席が後ろだと見えにくいので、席を前にしてもらうように学校側で対処してもらいましょう。
メガネの度数で言うと眼前50cm以上のところにピントが合わないほどの近視になっていれば、メガネを掛けることを提案しますし、高校生にもなればもっと軽い近視から必要です。
軽度の視力低下でも気をつけなければならないのは遠視です。やや強めの遠視でも小学校低学年だと裸眼視力が良いことがあり、学年が上がるにつれて、裸眼視力が低下することがあります。
遠視の程度によっては、メガネを常時装用する必要があります。
以前は近視の子供にメガネを合わせる場合、遠方がはっきり見える度数よりもやや弱く処方されることが慣例でした。
近くを見るときのピント合わせが近視を進めるはずと推量されていたので、ピント合わせを少しでも減らすため弱めに処方することがその理由ですが、データに裏付けされてはいませんでした。
しかし最近の研究報告では、やや弱めに合わせたメガネのほうが遠くがはっきり見えるメガネより近視が進行しやすいこと、近視が強いほどその傾向が強いと結論づけています。
つまり子供を含めた若年者の近視には、近視の進行を抑えるためにも遠くがはっきり見えるメガネを処方すべきです。
コンタクトレンズの着け外しが問題なくでき、眼にゴミが突然 入っても手を洗ってコンタクトレンズを外すほどの落ち着い た行動ができるようになる年頃であり、目安として中学生です。
ただし近視度数が強くて、常時メガネを掛ける必要があるにもかかわらずメガネが嫌で掛けない場合は、最小で小学3年生ぐらいからコンタクトレンズを試みることがあります。
その根拠として、子供のSCLを装用することの安全性を調査した報告があり、8〜12歳の子供は13歳以上の若者や成人に比べて明らかに合併症が少ないとのことでした。
おそらく、子供は保護者の監督下にあってコンプライアンス良くSCLを装用しているからでしょう。 メガネが必要だが掛けたくないとか、サッカーをするからメガネが掛けられないけど日中のSCL装用に抵抗がある場合、、オルソケラトロジーという選択肢もあります。
これまで我々眼科医は近視がどんどん進行する子供への対処法として、その度ごとにメガネを処方するしかなく、近視の進行を抑えることは積年の願いでした。
ようやく最近になって、近視の進行を抑える治療法として、1)低濃度アトロピン点眼、2)オルソケラトロジー、3)多焦点ソフトコンタクトレンズ、4)太陽光の下での戸外活動などが有効であることが確証されました。 直近では、5)太陽光に含まれるバイオレット光の働きから、クロセチンの内服が有効との報告があります。
以前から1%アトロピン点眼には近視の進行を抑える効果があると知られておりましたが、副作用が強くて使えませんでした。 ところが0.01%に調整した低濃度アトロピン点眼を一日に一回だけ投与しても、学童期(6~12歳)の子供に対して近視の進行を抑える効果が十分にあり(2012年)、副作用も全く見られないことがわかりました。 私共の施設でも希望者に処方しております。
オルソケラトロジーとは、特殊なハードコンタクトレンズを毎晩着けて寝ることで、朝から裸眼で過せる治療法です。
このレンズを装着すると、黒目(角膜)の表層が一時的に平坦化して近視が減りますが、装着しないと元の近視に戻ります。私自身は日本に導入された当初の2001年より処方を行っており、自分の子供にも装用させ、近視の進行を抑える効果を十分に実感しております。
低濃度アトロピン点眼では近視は減らないためメガネが必要ですが、オルソケラトロジーを行うとメガネが必要無くなることに加えて、近視の進行を抑える効果があります。
ただし強度の近視には見やすくするほどの効果が乏しく、近視が強くなる前にすべき治療法です。
焦点ソフトコンタクトレンズは、老眼で近くが見づらくなった世代に開発された遠近両用のコンタクトレンズであり、様々なタイプがあります。
それらのうち、中心部を遠くが見えるように設計されたタイプが近視の進行を抑える効果があると確認されています。
多焦点ソフトコンタクトレンズもオルソケラトロジーと同じく、装用すればメガネを掛ける必要が無くなりますが、オルソケラトロジーとは異なり、黒目の形を一時的すら変化させないこと、通常のソフトコンタクトレンズと扱いが同じであるために受け入れやすいことです。
しかし終日に装用するために、自分で装脱着ができないと緊急の対処ができなくて危険であり、小学生の低学年には処方が難しいです。
一方、オルソケラトロジーは日中に装用しないため装脱着を保護者が管理でき、小学生の低学年から開始できます。
お子様の年齢が小学生の高学年以降なら、多焦点ソフトコンタクトレンズも選択肢の一つになります。
太陽光下での戸外活動が近視進行抑制に有効であることから、屋外環境にあって屋内にはないバイオレット光が注目されました。
太陽光に含まれるバイオレット光は屋内環境の白熱灯やLEDにはほとんど含まれておらず、窓ガラスや眼鏡レンズを通ることができません。このバイオレット光を網膜に取り込むと、近視進行抑制に働く遺伝子が発現しやすくなります。サフランやクチナシの実に含まれる色素成分「クロセチン」を摂取してもこの遺伝子が活性化されることがわかり、「クロセチン」7.5mgを小学生に6ヶ月間投与したところ、眼軸長の伸長と屈折度数の近視化を抑制することが確かめられました。
「クロセチン」の効果はまだまだ未知数ですが、当院でもこのサプリメントをご用意しておりますので、お子様の近視進行をなるべく抑えたいご両親は、お気軽にご相談ください。