近視とは、近くは見えるものの遠くが見えにくい眼の状態です。
眼の構造で説明すると、物がはっきりと写る眼の内面(網膜)でピントが合わず、その手前でピントが合っています。
発症初期の軽い近視は、近業を続けることで眼の中にあるレンズ(水晶体)を厚くする筋肉が緊張して起こる見かけ上の近視(調節緊張、あるいは偽近視)か、眼球が前後方向に長くなることで起こる真の近視かを鑑別しなければなりません。(図1)
レンズを厚くする筋肉の緊張を解くことで近視が治るならば、その近視は見かけ上の近視(調節緊張、あるいは偽近視)の状態であったと言えます。
見かけ上の近視の治療として眼科で最も行われているのが、筋肉の緊張をとる目薬(薬品名:ミドリンM点眼、トロピカミド点眼)を就寝前に点眼する方法です。
当院ではこれを1ヵ月続け、それでも近視が軽減しなければ、見かけ上の近視ではなく真の近視と判定しております。
点眼以外の治療法として、遠くの景色を長い間見つめる望遠訓練がありますが、当院では内部の立体風景を5分間眺めるだけで遠方を20分間見つめたのと同じ効果を持つ器械(商品名:ワック)で行っております。
また低周波や超音波を使った理学的療法も民間で行われています。ただし経験的には、これらの治療を行っても近視はほとんど軽減せず、あっても一時的です。
眼球が前後方向に長くなってピントが網膜の手前で合っている近視を半永久的に治すには、黒目(角膜)を削って平らにする(レーシックなど)か、水晶体の前に眼内レンズを置く(有水晶体眼内レンズ:ICL)などの外科的手術しかありません。
子どもの近視が発生し進行するリスクは、
によって高くなります。
1)〜3)の要因はそれぞれ関連性がありますが、4)の要因は独立しています。
1)は両親ともに近視、あるいはどちらかが近視であると近視発症のリスクが高くなります。さらに両親が近視であれば、屋外で過ごす時間が短くなり、読書に費やす時間が長くなることの関連性が知られています。
2)は、近業の合計時間とは関連性がなく、非常に近い視距離(20cm未満)と連続的な近業時間(45分以上)に関連性があります。また、近業時間が長くなると、屋外で過ごす時間が短くなる傾向があります。
3)の屋外活動は、子どもの近視の発生を抑える効果があり、近距離での作業を頻繁に行う子どもにも効果が認められています。
4)の近視の発症年齢は子どもの近視の進行度合いと関連し、近視の発症年齢が低いほど将来に近視が強くなる傾向があります。具体的には10歳未満の低年齢で近視が発症すれば、近視が強度になる可能性が高いです。
この要因は1)〜3)とは関連性がなく、両親が近視でなくても、あるいは近業時間が長くなくても、低年齢で近視化した子どもは近視の進行が早くなる傾向があります。
以上から、子どもの近視の発生と進行を抑えるためには、スマートフォンや手持ちタブレットなどのデジタルデバイスの使用や読書・勉強時には、適切な作業距離(30cm以上)と時間を保ちながら(45分未満)、定期的に休憩を取り、屋外での十分な活動時間を日常的に確保することが重要となります。
さらにお子様が10歳未満で近視を発症しているなら、近視進行治療を積極的に検討すべきであると考えられます。
近視のため遠方が見えにくいことを自覚するのは、先ず初めは黒板の字です。
席が後ろだと見えにくいので、席を前にしてもらうように学校側に配慮してもらいましょう。
席を前のほうにしても見えにくい、裸眼視力が0.2~0.3まで低下した、あるいは眼前50cmから離れるにつれてぼやけが増すようになれば、メガネをかけるべきです。
ただし小学生高学年になれば、黒板の字は小さくなり、字画の多い漢字が使われますので、近視が軽くても授業中はメガネが必要になります。
このような軽度の近視の場合、メガネの装用は常時装用でも必要な時だけでもよく、メガネのかけ外しによって近視が進行することはありません。
軽度の視力低下でも気をつけなければならないのは遠視です。
やや強めの遠視でも小学生低学年だと裸眼視力が良いことがあり、学年が上がるにつれて、裸眼視力が低下することがあります。
遠視の程度によっては、メガネを常用する必要があります。
ご両親のなかには、メガネをかけて近視が進んだことを経験した、もしくはそんな話を聞いたことから、子供のメガネの装用を極力遅らせる方がいらっしゃいます。
メガネをかけたことがなく裸眼でしかものを見ていない子供は、眼を細めたり、顎を引いたりして焦点深度を深め、見やすい工夫を無意識にしています。
さらにぼやけて見える像を脳が解析することで、少しは鮮明にしています。
これらの努力により、裸眼視力が近視の割には良いことが多いのですが、メガネを掛けて見やすい環境に慣れるとこれらの努力をしなくなるので、本来の悪い裸眼視力が浮き彫りになります。
また近視が進行すると、メガネの度数は直線的に増えていきますが、裸眼視力は図2の斜線のように直線的に低下するのではなく、ほんの少し近視になったら0.2ぐらいまでは急激に低下します(図2)。
つまり、少し見にくくなってメガネをかけ始める時期と、急激に視力が低下する時期が重なります。
これらの理由により、メガネをかけると急に進んだという記憶を持つご両親が多いのです。
眼前30cm以上のところにピントが合わないなら、メガネを常用すべきです。
ここまで近視が進んでいても常用しない場合、矯正しても視力が出にくいことが多いため、必要以上に強いメガネを処方されているのを時々見かけます。
また本来、遠くを見ると両目はまっすぐ前を向き(開散)、近くを見ると両目は内に寄って(輻輳)近くにピントが合う(調節)という一連の動作が連動して行われています。
しかしメガネを掛けない期間が長く続くと、この一連の動作が連動しなくなり、そのような状態でメガネを掛けると、眼の疲れを感じたり、近くを見た場合に物が二つに見えたりすることがあるので、必要な時期が来ればメガネを掛けるべきです。
黒板の字が見えにくくて学業に支障を来たすにもかかわらずメガネを掛けないのは、メガネを掛けると近視の進行が早まるからという思い込み以外には、メガネを掛けることを本人が嫌がっているからかもしれません。
ご両親が子供にメガネを掛けさせるのが可哀そうと思い、掛けさせないこともあります。これらの場合、コンタクトレンズあるいはオルソケラトロジーという選択肢もあります。
以前は近視の子供にメガネを合わせる場合、遠方がはっきり見える度数よりもやや弱く処方すべきとされていました。
コンタクトレンズをしてもいい時期は、コンタクトレンズの着け外しが自分できちんとできて、眼にゴミが入っても冷静に自分で対処できるほど、コンタクトレンズの管理がしっかりできる年齢になってからであり、目安として中学生です。
ただし近視の度が強くて常時メガネを掛ける必要があるにもかかわらず、メガネが嫌で掛けない若しくはスポーツをするなどの制約があれば、小学4、5年生ぐらいからコンタクトレンズを始めることもあります。
また低年齢のためコンタクトレンズができない場合、オルソケラトロジーという選択肢もあります。
成長とともに眼球は前後方向に長く伸びますが、幼少期では、眼の中にあるレンズ(水晶体)が薄くなって、眼球の伸びによる近視を補正するように働き、見やすい状態を維持します。
ただ、水晶体による補正も限界があって、その限界以上に眼球が伸びますと近視になります。
近視の発症年齢と近視の程度とは関係が強く、発症年齢が早いほど強度近視になるリスクが高まります。
強度近視は近視がただ強いだけではありません。
強度近視になると、中高年以降に視覚障害を生じ、視覚障害1級(失明)の原因として常に上位にある病的近視、緑内障、あるいは網膜剥離になるリスクが高くなります。
病的近視の主な病気に近視性黄斑症がありますが、近視が強くなくても、1D(ディオプター)でも近視の進行を抑えることができれば、近視性黄斑症になるリスクは37%(緑内障17%、網膜剥離23%)も低下すると推定されています。
さらに、小児期に近視の進行を抑える治療をすることで得られる利益(将来、視覚障害となるリスクの回避)は治療を行って重篤な合併症(感染性角膜炎など)から被る不利益と比較しても、はるかに大きいことが算出されました。
このことから、小児期のできるだけ早い時期から近視の進行を抑えることが、将来の健康のために非常に大切になります。