
心因性視力障害の特徴
心因性視力障害の特徴として、①普段は見えにくそうにしている素振りがないため、周りの家族はもとより本人も気づかずに、学校検診などで視力低下を指摘され発見されることが多い。②黒板や視力検査になると見えにくいが、家ではテレビを普通に見ているなど、場面によって見えたり見えなかったりする。日常生活では見えにくくて困ることはほとんどない。③視力低下は両眼性で、0.3以下の比較的高度なものが多い。視力測定では視力表の一定のラインまでくると、あっさりと「見えません」を連発したり、測定のたびごとに視力の値にばらつきがある。④近視や乱視などの屈折異常がある場合でも、屈折異常を矯正しても視力が出ない。⑤凹レンズと凸レンズを組み合わせて度のないレンズで視力を測定するトリック検査で視力がでるケースが多い。ただし、患児は見えているのに見えないと嘘をついているわけではなく、本人は本当に見えていない。⑥思春期に入る前の心理的、精神的に不安定な時期である小学2~5年生の女児に多く、女子は男子の3~4倍多くみられる。⑦親に対して従順であまり自己主張しない性格、いわゆる「いい子」であることが多い。⑧視力障害以外にも、視野が極端に狭くなる求心性視野狭窄や色覚異常の眼科的所見を合併することが多い。この色覚異常は色覚異常の多数を占める先天赤緑異常ではない(女子の先天赤緑異常は女性の0.2%と少ない)。⑨眼科以外の所見として、心因性聴力障害を伴うことがときにある。
心因性視力障害の原因
ストレスの原因には、「肉親の死」とか「両親の離婚」等の深刻な問題ばかりでなく、多くは、「兄弟げんか」、「親の愛情の奪い合い」、「塾通いやクラブ活動の負担」、「メガネへの願望」等の日常のありふれたできごとや、「転校」、「学級担任がかわった」、「友達となじめない」等の学校生活上の問題があります。こういった明らかな原因のほかに、原因が特定できないことも多いです。しかし、不登校、校内暴力、非行などの問題行動につながることはまれです。
原因の一つであるメガネ願望
これらの原因のうち、意外と多いのが「メガネへの願望」です。友人、尊敬する先生、あるいは両親がメガネをかけていると、メガネに憧れるようで、小学3~4年生の女児によく見受けられます。この年頃の心因性を疑う場合、母親といっしょに診察室に入った患児には、以下のような質問をほぼ全員にします。①「黒板の字は見えている?」と質問をすると、メガネ願望のある患児は黒板の字が見えにくいと自覚していることが多い。②「クラスメイトにメガネをかけている子がいる?」と質問をすると、メガネ願望のある患児は「いる」と答えたり、何も答えずに母親の方を見て、代わりに母親が「多いです」と答えることが多い。②「~ちゃんは、メガネをかけてもいいの?それともかけたくない?」と質問すると、患児が「かけたくない!」と自己主張できる、あるいは自己主張できないながらも「メガネをかけたい?」との質問にニャーと笑って肯定的な場合、心因は軽度であることが多い。ただし、もともと心因性を疑うような児童であるため自己主張できないことが多く、患児は母親の気持ちを探るように母親の顔を見ながら「かけたくない」と答えたり、代わりに母親が「めがねをかけないといけませんか?」とか、「メガネはなるべくかけさせたくないんですが」と口を挟んで母親自らの思いを主張することが多い。③質問に対する応答が上記のようであれば、メガネ願望を疑う。この場合、「メガネを作るために検査しようね」と本人に説明した後に検査すると、視力検査では矯正しても視力が出なかったのに、度の無いレンズで正常な視力が出ることが多い。
メガネ願望のある子は、見えにくいことを自覚しており、見えるようになりたい気持ちがあります。メガネをかけると見えるようになるだろうと期待はするけど、メガネをかけたいから見えにくいとは自覚していません。その裏づけとして、近視や乱視がほとんど無い場合は、本人も作成したメガネをかけなくても見えることに気づき、数ヶ月もするとメガネをしなくても視力がでるようになります。ただし、メガネ願望の患児に目の病気がないからといって、「メガネなど必要ない」と作らずに様子を見ていると遷延化し、「メガネを作ろうね」と説明して視力を測定しても、視力が出なくなることがあります。
メガネ願望のある患児を診ていて気づいたことは、前思春期の女児に、メガネに興味があるという気持ちがこの年頃になって芽生えたにもかかわらず、これまで保ってきた親子関係を継続しようとするためでしょうか、「できればメガネなどかけさせたくない」というメガネに対する親の否定的な気持ちを自己の気持ちとして置き換えて、自己の気持ちを無意識下にまで抑圧してしまうようです。
心因性視力障害を治すには
心因性視力障害と診断した時点で、ご両親にはこの病気について説明します。患児が嘘をついているわけではないこと、心因となる背景がどこかにあるかもしれないが、簡単に見つかることは少なく、原因を決め付けるような態度をとらないように注意していただきます。患児と親との間のコミュニケーション不足やスキンシップ不足が存在していることが多く、積極的に会話やスキンシップを持つように指導します。
また、患児本人には、心因性であることを告げずに、「目に異常がないから、必ず視力が良くなるので、心配しないでよい」とだけ伝えておきます。 視力検査の時にトリック検査で視力が出る場合には、度の無いメガネの処方が有効であることが多く、「このメガネをかけるとよく見えるよ。」と暗示をかけておきます。親には度のほとんど無い伊達メガネであり、眼鏡のかけはずしは本人の自由に任せてよく、「見えるようになると自然とかけなくなる」と説明します。また、メガネと同様、「この目薬で早く治そうね。」と暗示をかけるための点眼を処方することもあります。点眼する方法ですが、親とのコミュニケーションやスキンシップを図るために、夜寝るときに親が患児と一緒に添い寝をし、その日のことについて会話しながら点眼するという「抱っこ点眼法」があります。
心因性視力障害の予後
心因性視力障害で失明することはなく、症状が発見されてから1年以内に視力が改善するものがほとんどです。特に小学生では度なしメガネや点眼などの暗示療法が有効で、3ヶ月以内に70~80%の患児が視力1.0以上に回復します。学校の定期検査で再発がみつかることもありますが、7~8%程度です。しかし中学生になると、心因が複雑なものが多くなり、治療が困難な場合もあります。 治療が困難である、1年以上も視力の改善傾向がみられない、あるいは何度も再発する場合は、心身症担当の小児科医や小児担当の心療内科医の受診も検討しなければなりません。
また、難聴や呼吸器の症状など、眼科以外の症状が合併するときは、他科への紹介が必要になることもあります。
近視が治った子供ももしかすると
学校検診で視力低下を指摘されて来院され、近視と診断した児童の両親に、近視が治る症例はまずないことを伝えると、本人や近い親族でトレーニングや点眼で治ったことを経験したと反論されることがあります。私的な推論ですが、それらの症例のほとんどは心因性視力障害であるにもかかわらず、仮性近視と診断されていたのではないかと考えています。

心因性視力障害とは
学校で定期的に行う視力検査で視力低下を指摘されて来院される患児の中には、視力に影響するような、近視や乱視などの屈折異常や目の病気がないにもかかわらず、矯正しても視力が出ない児童がいます。これは何らかの心理的ストレスが強く影響して視力障害を引き起こしており、心因性視力障害と呼ばれます。